この記事では、三輪さんの作品のうち「虹機械」シリーズの特徴についての質問をGeminiとClaudeにした結果を報告します。同じ質者をChatGPTに対して行った結果の報告は、やりとりがかなりの長さになったこともあり、別の記事として追って報告します。
追ってコメントしていきますが、結論を先取りして言えば、この質問に対する回答については、Geminiのみが合格点で、Claude, ChatGPTの回答は、言われるところの「幻覚(Hallucination)」の典型的な事例であり、いずれもフェイクをでっちあげて回答しています。特にChatGPTのそれはかなり深刻な事例であり、混乱を避けるためにも別記事で報告することにします。
まずGeminiの回答です。細部に気になる部分はあるものの概ね事実に即した回答となっています。しかし細かく見れば、以下のように幾つかおかしな点を指摘することができます。
- まず「作品には「公案-001」という副題がついており」という回答の仕方から、虹機械が幾つかの作品を含むシリーズであるという点は抜け落ちており、事実上「虹機械 公案-001」についての回答となっています。演奏者として大井浩明さんの名前が挙がっている点もそのことを窺わせます。
- 一方で「「はじまりのうた」のテーマによる永遠の変奏曲と言う副題を持つ作品」への言及があり、これは事実ではありますが、虹機械のシリーズについて述べるならば、ROSCOが初演したヴァイオリンとピアノのためのデュオである第1番、「七つの照射」という副題を持つ第2番、そしてピアノコンクールの課題曲として作曲された「はじまりのうた」について述べるべきでしょう。少なくとも「はじまりのうた」のオリジナルに言及せずに「「はじまりのうた」のテーマによる永遠の変奏曲」のみを取り上げるのは妥当とは言えないでしょう。
- これは細かい点ではありますが、「公開録音イベント」の開催も事実であり、その際には「聴衆はその場で演奏の迫力を体験することができ」たでしょうが、回答はそれがあたかも定期的に開催され続け、今後も予定されているかのような書き方になっており、ミスリードに感じられます。
もう一点、Geminiの回答で興味深いのが、「「はじまりのうた」のテーマによる永遠の変奏曲と言う副題を持つ作品」への言及です。実験に使用したGeminiのモデルはFlash 2.0でこれはごく最近、2024年12月11日にリリースされたものですが、「「はじまりのうた」のテーマによる永遠の変奏曲」の公開は2024年12月5日であり、モデルの事前学習のデータにこの作品の情報が含まれていたとは考えられません。このことが意味するのは、この回答が事前学習の言語データに含まれていた情報に由来するのではなく、プロンプトを送ったタイミングでのリアルタイム検索の結果と考えられるということです。実際、Geminiは(正確にはその前身であるBardの時から、と言うべきでしょうが)リアルタイムのGoogle検索結果も利用して回答を返すようですので、この点についてはGeminiのリアルタイム検索の有効性が示されたものと考えることができるのではないかと思います。
Geminiのこの特徴は、生成AIの「知識」が事前学習時点のものに限定され、それ以降の新しい情報については「知らない」という制限を回避する方法として有効であり、最近、生成AIをローカライズする方法としてビジネス上関心を集めているRAG(Retrieval-Augmented Generation)に通じるものがあります。
一方のClaudeの回答は、一見してわかる通り、以下のように幾つもの誤りを孕んでいます。
- まず、作曲年代が1990年代というのは明確な誤りです。(虹機械の最初の作品である「虹機械 2人の奏者のための単旋律」の初演は2008年10月11日であり、そのベースとなった「五度重ねの公案による単旋律ハ長調(エオリアン)」のデモが、「新調性主義」のコンセプトとともに発表されたのは、2008年1月20日のことなので、それより遡るということはあり得ません。
- 「「虹」という名前が示すように、さまざまな音色や周波数のスペクトルが層状に重なり合い、複雑な音響空間を作り出しています。」というのも明確に誤りで、虹機械のシリーズの作品は単旋律であることを共通の特徴としています。従って特徴の3点目「音響の層状構造:複数の音響レイヤーが重なり合い、豊かな音のテクスチャーを形成」というのも同様に、明らかなフェイクです。
- 特徴の2つめに挙げられている「確率論的要素」は確かに存在しますが、それは決定論的な状態遷移規則に基づく音系列の軌道を攪乱するノイズとして導入される(第2番のタイトル「七つの照射」は、それを放射線の照射に喩えた命名となっています)のであり、作品としては、音の系列は事前に確定しています。従って「確率論的要素」により「演奏ごとに微妙に異なる音響体験を生み出」すことはありません。
全体としてClaudeの回答は、「虹機械」という文字列に引き摺られた生成AIならではの或る種の連想による回答生成の結果であり、生成AIにおいて世上問題視される「幻覚(Hallucination)」の典型例と見做すことができると思われます。
どうしてこのようなことが起きるのかについては、より激しく大規模な「幻覚(Hallucination)」が生じたChatGPTのケースで検討していきますが、そもそもの前提として、基本的に生成AIは、完全に言語データの上だけで、言語記号が接地する現実(言語の側からはリファレントに相当)との関わりなしに、与えられた文章に続きそうな文章を出力しているだけであり、後は対話が自然になるように、やりとりについて別途訓練しているだけなので、音楽のような言語の外部のものについては根本的な限界があることを確認すべきでしょう。最近の大規模言語モデルでは、インターネット上に公開・共有されているコンピュータプログラムのソースコードを大量に学習させ、そのことにより深い推論が可能になったという報告もあるようですが、楽譜やMIIDデータ、あるいは音響データは学習の対象にはなっていないでしょうから、そもそも対象となっている作品を生成AIが実際に「聴いた」ことはなく、言うならば、言語データによる「人のうわさ」のレベルだけで受け答えしているだけなのです。
勿論、画像処理が既にそうであるように、恐らくは近い将来、音楽生成AIとの統合もされるでしょうから、音楽を作ったり、演奏したり、ある基準で良し悪しを比較したり、分析したりすることも、そうするプログラムをプロンプトによる言語的な指示に従って生成するかたちで出来るようになる可能性は十分にありますが、少なくとも現時点では、生成AIはあくまで音楽についての言説の空間の中で動いているだけで(しかも、ここでの言語の「意味」は基本的には「分布仮設(distribution hypothesis)」に基づくベクトルの分散表現に過ぎず、Attentionのメカニズムの導入という画期的なブレイクスルーにより洗練され、巧妙なものになったとはいいながら、元を糾せば所詮はトークン間の相関に過ぎません)、音楽が鳴り響く現実とは基本的に無関係な存在であるという点はいくら強調しても強調のし過ぎということにはならないと思います。
(2025.3.23)
(注意)以下の回答にはフェイクが含まれます。ご注意ください。
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プロンプト(共通):三輪眞弘の虹機械はどのような作品ですか?
Gemini(2025.3.9)
三輪眞弘の「虹機械」は、超絶技巧を要するピアノ作品であり、彼の代表作の一つです。以下にその特徴をまとめます。
作品の特徴
- 超絶技巧:
- この作品は、非常に複雑で速いパッセージを多用しており、ピアニストには高度な技術と集中力が求められます。
- 一瞬の休みもない疾風怒濤の音のうねりが特徴です。
- 構造と形式:
- 作品には「公案-001」という副題がついており、禅の公案のように、聴く者や演奏者に思考を促すような構造を持っています。
- 「はじまりのうた」のテーマによる永遠の変奏曲と言う副題を持つ作品も発表されています。
- 音楽的特徴:
- 三輪眞弘の音楽の特徴である、コンピュータ音楽的な精密さと、人間による演奏の限界に挑戦するような要素が融合しています。
- 音の配置やリズム、音色の選択に至るまで、徹底的に計算された音楽です。
- 演奏と録音:
- ピアニストの大井浩明氏によって演奏されることが多く、その超人的な技巧によってこの作品の複雑さが表現されています。
- 公開録音イベントも開催されており、聴衆はその場で演奏の迫力を体験することができます。
三輪眞弘について
- 三輪眞弘は、日本の作曲家であり、コンピュータ音楽の分野でも活躍しています。
- 彼の作品は、現代音楽の枠を超え、テクノロジーと人間の感性の融合を追求しています。
- 「逆シミュレーション音楽」などの独自の理論を提唱し、音楽の可能性を広げています。
「虹機械」は、三輪眞弘の音楽性を象徴する作品であり、現代音楽の新たな可能性を示すものとして注目されています。
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プロンプト(共通):三輪眞弘の虹機械はどのような作品ですか?
Claude(2025.3.11)
三輪眞弘の「虹機械」は、1990年代に発表された作品で、コンピュータ制御による音楽生成システムを特徴とする実験的な音楽作品です。
この作品では、アルゴリズミック・コンポジションの手法が用いられており、数学的なパターンやプログラミングによって音楽が生成されます。「虹」という名前が示すように、さまざまな音色や周波数のスペクトルが層状に重なり合い、複雑な音響空間を作り出しています。
「虹機械」の特徴的な点として:
自律的なシステム:コンピュータプログラムが一定のルールに基づいて自律的に音を生成し、変化させていきます。
確率論的要素:完全に決定論的ではなく、確率的な要素も取り入れられており、演奏ごとに微妙に異なる音響体験を生み出します。
音響の層状構造:複数の音響レイヤーが重なり合い、豊かな音のテクスチャーを形成します。
この作品は、三輪の作曲スタイルの特徴である「音楽における人間性とテクノロジーの関係性」の探求を表現しています。機械的なプロセスによって生成される音楽でありながら、聴き手に独特の美的体験を提供する点が、三輪眞弘の作品世界の核心を示しています。
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プロンプト(Claudeのみ):虹機械は、「新調性主義」というコンセプトに基づく、一連の器楽作品のシリーズです。
Claude(2025.3.11)
ご指摘いただきありがとうございます。おっしゃる通り、三輪眞弘の「虹機械」は私が述べた内容とは異なり、「新調性主義」というコンセプトに基づく器楽作品のシリーズです。
「虹機械」は単一の作品ではなく、シリーズとして展開されており、三輪眞弘が提唱する「新調性主義」の音楽思想を反映しています。この新調性主義は、西洋の調性音楽の要素を現代的な文脈で再解釈し、新たな音楽言語を模索するアプローチです。
このシリーズでは、コンピュータ技術を活用しながらも、実際の楽器による演奏のための作品として構成されています。コンピュータのアルゴリズミックな要素と伝統的な器楽演奏の融合により、独特の音響世界を創出しています。
情報の訂正をいただき、ありがとうございました。三輪眞弘の作品についての正確な理解に役立ちます。
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